『その着せ替え人形は恋をする』──“好き”を貫く勇気と、見た目を超えた愛のかたち
	作品情報
『その着せ替え人形は恋をする』は、福田晋一さんによる漫画が原作で、2022年にアニメ化された大人気ラブコメディです。「着せ恋(きせこい)」の愛称で親しまれています。
この作品の魅力は、コスプレ制作という情熱的なテーマと、新菜と海夢の甘酸っぱくて純粋な恋の行方が丁寧に描かれているところです。二人の「好き」という気持ちが、お互いを成長させていく、眩しい青春ラブコメディです。
あらすじ
ある日の出会いをきっかけに、コスプレを通して交流を深めていく喜多川海夢 まりん と五条新菜 わかな 。
まだまだやりたいコスプレ、作りたい衣装はいっぱい。クラスメイトたちとの交流や、新しいコスプレ仲間たちとの出会いの中で、
海夢と新菜の世界はさらに広がっていく。
そして、新菜にドキドキのとまらない海夢の恋に進展はあるのか―!?『ヤングガンガン』&『マンガUP!』(ともにスクウェア・エニックス)にて連載の福田晋一による大人気原作が、
CloverWorksの手により再びアニメ化!コスプレで広がる世界、見つけた自分――
海夢と新菜のコスキュン♡ストーリーは続く!
オタクとギャルが出会うとき、恋と創造が生まれる
『その着せ替え人形は恋をする』は、見た目も価値観もまるで違う二人が、コスプレという創造の世界を通して互いを理解し、成長していく物語です。表面的にはラブコメディでありながら、その根底に流れているテーマは「自己肯定」と「創作への情熱」。そして何より、「好きなことを好きと言う勇気」です。
高校生の五条新菜は、ひな人形の頭師を目指す真面目で不器用な少年。周囲から浮き、他人と関わることを避けて生きてきた彼の世界に、ある日突然、明るく自由奔放なギャル・喜多川海夢が現れます。オタク趣味全開で18禁ゲームのキャラを愛し、コスプレに全力を注ぐ彼女は、まさに「オタクに優しいギャル」という幻想のような存在。しかし本作は、その“幻想”を現実に落とし込み、丁寧に人間としての魅力を描き出します。
見た目も立場も異なる二人が、作品作りを通して少しずつ心を通わせていく。そこにあるのは、派手な恋愛劇ではなく、誠実で温かい“成長の物語”なのです。
エロスと純粋のはざまで描かれるリアルな青春
本作を久しぶりに見返して驚かされるのは、初見では気づかなかった“生々しさ”と“誠実さ”の共存です。第2話での採寸シーン、第3話の水着回、第5話の衣装試作――いずれも思春期特有のドキドキを巧みに描きながら、決して安っぽいエロスには落ちていません。
新菜が海夢を採寸するシーンでは、彼の誠実さが際立ちます。動揺しながらも、彼は職人としての責任感を優先し、仕事に集中する。単なる“ラッキースケベ”で終わらせず、そこに「異性との距離をどう取るか」「相手をどう尊重するか」というテーマが自然に描かれているのが、本作の秀逸な点です。
そして海夢の側にも、性に対してオープンで、恥じらいを持ちながらも前向きに受け止める成熟さがあります。彼女の“エロさ”は決して扇情的ではなく、むしろ健全な好奇心と自己表現の一形態として描かれているのです。女性作家・福田晋一先生ならではのバランス感覚が光ります。
この“健全なエロス”こそ、『その着せ替え人形は恋をする』の特色です。思春期の純粋な欲望を否定せず、笑いと温かさで包み込む。その描き方が、青春のリアリティとユーモアを両立させているのです。
コスプレ=愛の表現。見た目ではなく“想い”で繋がる関係
本作の中心テーマである「コスプレ」は、単なる趣味ではなく、登場人物たちが自分を表現する手段であり、愛を伝えるための“言葉”でもあります。
海夢はエロゲーのキャラ「雫たん」に憧れ、その衣装を再現したいと願います。新菜はその依頼を通して、ひな人形作りで培った繊細な技術と美意識を活かし、現実世界に二次元の夢を形にしていきます。そこにあるのは、外見の再現を超えた“キャラクターへの敬意”です。
特に印象的なのは、ラブホテルでの撮影回。シチュエーション的には極めて挑発的ですが、描かれているのは欲望ではなく“創作の真剣さ”です。ベッドの上で体勢を調整しながら理想の構図を追い求める二人。その姿は、職人とモデルという立場を超えて、同じ夢を追う仲間のようです。
その後、隣室から聞こえる喘ぎ声に動揺する二人の姿が描かれますが、それもまた“子どもと大人の境界”を象徴する一幕。彼らはまだ恋と創作の狭間で揺れ動く未熟な存在であり、その未完成さこそが本作の魅力でもあるのです。
さらに、海夢が料理を失敗した時に、新菜が「見た目じゃなく味が大事」と自然に褒める場面。この一言が本作の核心を突いています。見た目を極めるコスプレという世界で、「中身を大切にする」価値観を描く。この矛盾のような真理が、作品全体の温かさと深みを生んでいるのです。
“好き”を貫く強さと、誰かを支える優しさ
 本作を支えているのは、恋愛よりもむしろ“好きなことを真っすぐに貫く勇気”です。
 新菜は幼い頃、「男のくせにひな人形が好きなんて気持ち悪い」と言われ、心に傷を負いました。その過去を抱えながらも、自分の“好き”を捨てなかった。彼が海夢に惹かれていくのは、彼女がまっすぐに自分の好きなものを語る姿に共感したからです。
「好きなことを好きと言える勇気」――それは誰もが持ちたいと願いながら、社会の中で失いがちなものです。新菜と海夢は、その勇気を互いに映し合いながら成長していく。オタクとギャルという極端な対比は、実は“自分らしく生きることの尊さ”を描くための装置なのです。
 また、忘れてはいけないのが、新菜の祖父の存在です。「いい人形を作りたいなら、人形だけ見てちゃだめだ。いろんなもん見とけ。」――この言葉は、ものづくりの本質を突いた名言であり、人生の指針でもあります。
 視野を広げ、人と出会い、世界を知ること。それが創造の糧になる。新菜が海夢と出会い、彼女の世界に触れることで心を豊かにしていく過程は、この言葉の体現そのものです。
だからこそ、最終話で海夢が電話越しに「好きだよ」と伝えた瞬間、それを聞かずに眠ってしまう新菜の姿は、ただのすれ違いではなく、彼の“未成熟さ”を象徴しています。まだ恋も人生も途中段階。けれど、確実に前に進んでいる。そこにこの作品の優しいメッセージが込められているのです。
この世界には、“オタクに優しいギャル”も“夢を諦めない職人”もいる
『その着せ替え人形は恋をする』は、表面的なラブコメに見えて、その実、人の生き方と情熱を描くヒューマンドラマです。コスプレという「見た目」にこだわる世界を通じて、“中身の美しさ”を教えてくれる。好きなことを胸を張って好きと言い、自分を信じることの大切さを静かに伝えてくれます。
この作品が放送から時間が経っても愛され続けているのは、単にヒロインが可愛いからではありません。登場人物たちが“誰かのために努力する姿”が、観る者の心に希望を残すからです。
コスプレも恋愛も、突き詰めれば「誰かを笑顔にしたい」という同じ想いから生まれるもの。五条新菜と喜多川海夢の物語は、その純粋な想いを形にした青春の結晶なのです。
スタッフ・キャスト
キャスト
- 五条 新菜 : Voiced by 石毛翔弥
 - 喜多川 海夢 : Voiced by 直田姫奈
 - 乾 紗寿叶 : Voiced by 種﨑敦美
 - 乾 心寿 : Voiced by 羊宮妃那
 - 伊藤 涼香 : Voiced by 三宅麻理恵
 - 五条 薫 : Voiced by 斧アツシ
 - 五条 美織 : Voiced by 冨岡美沙子
 
スタッフ
- 原作 / 福田晋一
 - 監督 / 篠原啓輔
 - シリーズ構成 / 冨田頼子
 - キャラクターデザイン / 石田一将
 - 音楽 / 中塚武
 - アニメーション制作 / CloverWorks
 
(C)福田晋一/SQUARE ENIX・アニメ「着せ恋」製作委員会
