『ホリミヤ』― 静かな青春に宿る“光と影”。完璧ではないからこそ、胸に残る青春の物語
作品情報
『ホリミヤ』は、HEROさん原作のWeb漫画を、萩原ダイスケさんがリメイクした漫画が元となり、アニメ化された大人気の青春ラブコメディです。
この作品の魅力は、二人の恋の進展が非常にリアルでスピーディーに描かれているところです。不器用だけど素直な感情のぶつかり合いや、彼らを取り巻く友人たちとの温かい交流が、「超微炭酸系」という言葉の通り、爽やかで心地よい青春の空気感とともに描かれています。
あらすじ
君がいて、みんながいて。僕らのピースが揃っていく。
堀京子は、美人で成績も良く学校ではクラスの中心的存在。
ある日ネクラなクラスメイトの宮村は、ケガをした堀の弟創太を家に送り届けたことで堀と距離が縮まり…
堀をきっかけに同級生達とも交流を深めていく宮村。
みんなと繋がることで鮮やかに変わっていく日々。
そんな毎日は、青春が詰まった超微炭酸系スクールライフ!
足りないという美しさに気づかせてくれる物語
アニメ『ホリミヤ』を観終えたとき、私は不思議な感覚に包まれました。物語としては完成されているようで、どこかに小さな隙間が残っている。キャラクターたちは魅力的で、空気感も心地よく、音楽や色彩のトーンもすべてが穏やかに調和しているのに、最後まで見終わっても何か満たされない。それは欠点ではなく、この作品が意図的に残した“余白”のように感じられました。
『ホリミヤ』は、誰もが経験する「高校」という狭くも濃密な世界を舞台にしています。そこでは友情や恋愛、劣等感や憧れ、そして他人に見せない自分の顔が交錯します。登場人物たちは決して特別な存在ではなく、どこにでもいそうな高校生たち。だからこそ、彼らの揺れる心が痛いほどリアルに響くのです。
この作品は派手な展開や劇的な事件で観客を引っ張ることはしません。むしろ、日常の何気ない瞬間の中に潜む小さなドラマを拾い上げ、それを丁寧に積み重ねていきます。その穏やかな流れの中に、青春の輝きと切なさが静かに溶け込んでいるのです。
日常の中で出会う、もうひとりの自分
堀京子と宮村伊澄。明るくて面倒見の良い堀と、地味で目立たない宮村。ふたりの出会いは偶然のようでいて、どこか必然のようでもありました。学校ではクラスの中心にいる堀ですが、家では弟の面倒を見て家事をこなす家庭的な一面を持っています。一方の宮村は、学校では長髪に眼鏡の陰キャ男子として扱われていますが、実はピアスやタトゥーを隠し持つギャップのある少年です。
そんなふたりが互いの“もうひとつの顔”を知っていく過程こそ、この物語の核心です。外見や噂だけで人を判断していた自分が、相手の意外な一面に触れたとき、初めて心の距離が近づいていく。その瞬間を丁寧に描いているからこそ、『ホリミヤ』には真実味があります。
彼らの関係は、最初から恋愛の匂いに満ちているわけではありません。友達として過ごす時間の中で、少しずつお互いの存在が“当たり前”になり、その当たり前の中に恋が芽生えていく。堀が宮村のことを「私のものにしちゃおうかな」と冗談めかして言い、宮村が照れながらも受け止める――そんな何気ないやり取りの中に、彼らの距離感の変化が繊細に滲み出ています。
この「特別じゃない特別さ」こそが、『ホリミヤ』の最大の魅力です。何か大きな出来事がなくても、人の心は確実に変わっていく。その変化の一歩一歩が、観る者の胸に深く刻まれていきます。
描かれなかった影、そして感じる“物足りなさ”の理由
『ホリミヤ』は、間違いなく優れた青春群像劇です。しかし、その完成度の高さと同時に、多くの視聴者が共通して感じる“物足りなさ”があります。それは、作品全体の構成とキャラクターの“闇”の部分にもう少し踏み込んでほしかった、という点です。
アニメ版は1期で卒業まで描かれ、2期で未収録エピソードを補完するという少し特殊な構成でした。時間軸の流れが逆行するようなこの展開は、物語の一貫性を弱め、キャラクターの内面の深掘りがやや淡く見えてしまう要因にもなりました。特に宮村のピアスやタトゥーに込められた意味、過去の孤独や葛藤といった要素は、彼の人間像の根幹を成す部分です。本来ならそこにこそ、この作品の最大のドラマが潜んでいたはずです。
また、堀の中にある少し特殊な恋愛観――支配欲にも似た愛情表現や、宮村に対して荒っぽい言葉を求める場面など――は、人間の愛の深層心理を描く大きなチャンスだったように思います。それを単なる“フェチ的な要素”として流してしまったことが、本作がもう一歩上に届かなかった理由のひとつでもあるでしょう。
それでも、『ホリミヤ』の会話の温度感には救いがあります。
大きな出来事が起きなくても、登場人物たちが少しずつ心を通わせていく過程には確かな温もりがあります。無言の時間の中に流れる空気、視線の揺らぎ、触れそうで触れない距離感――それらが織りなす静かなドラマこそ、この作品の真価なのです。
完璧ではない青春の中にこそ、本当の輝きがある
『ホリミヤ』の魅力は、完璧ではないところにあります。
主人公ふたりは決して理想的なカップルではなく、互いに不器用で、少しずつ相手を理解しようとしながら成長していく。恋愛というよりも、人間として「誰かを大切にするとはどういうことか」を学んでいく物語です。
宮村が変わっていく姿は、まるで一人の青年が世界と和解していく過程を見ているようです。
かつては自分の殻に閉じこもり、人に心を開くことができなかった彼が、堀や仲間たちと関わる中で少しずつ世界に馴染んでいく。長髪を切り、眼鏡を外し、笑顔を見せるようになるその変化は、象徴的でありながらとても自然です。彼にとっての“変化”とは、見た目の変化以上に、心の扉を開くという行為だったのでしょう。
一方の堀も、強く見えて実は不安定で、宮村と出会うことで自分の中にある弱さと向き合っていきます。完璧な彼女ではなく、欠けた部分を持つひとりの人間として描かれているからこそ、観ている側も彼女に共感できるのです。
彼らの恋は華やかではありません。ですが、穏やかで、柔らかくて、確かに本物です。
青春のすべてが美しいわけではなく、時に歪で、時に苦い。けれどその不完全さの中に、私たちは生きる意味を見いだしていくのだと、この作品は静かに教えてくれます。
まとめ:欠けているから、心に残る。『ホリミヤ』という余韻の物語
『ホリミヤ』は、派手な演出や強いドラマ性ではなく、静けさの中に感情を宿す稀有なラブストーリーです。
描かれなかった部分にこそ想像の余地があり、観る人それぞれが自分の青春を重ねることができる。だからこそ、何度でも思い返したくなる。
完璧に描き切らない勇気、足りないまま終わる潔さ、そして日常の中に息づくささやかな幸せ。『ホリミヤ』は、それらすべてを穏やかに包み込んでいます。
最後に残るのは、大きな感動ではなく、小さな温もりです。
それはまるで、静かな放課後に差し込む夕日のように、柔らかく、そしてどこか切ない。
完璧ではないからこそ、美しい。
『ホリミヤ』とは、まさにそんな“未完成の青春”の象徴なのです。
スタッフ・キャスト
キャスト
- 堀 京子声 : Voiced by 戸松遥
- 宮村 伊澄声 : Voiced by 内山昂輝
- 石川 透 : Voiced by 山下誠一郎
- 吉川 由紀 : Voiced by 小坂井祐莉絵
- 仙石 翔 : Voiced by 岡本信彦
- 綾崎 レミ: Voiced by M・A・O
スタッフ
(C)HERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX・「ホリミヤ -piece-」製作委員会
