『山田くんと7人の魔女』― キスから始まる青春と再生の魔法
 
	作品情報
『山田くんと7人の魔女』は、吉河美希さんによる漫画が原作で、2015年にアニメ化された学園ラブコメディです。キスをすることで特殊な能力を発動できる「魔女」たちの秘密を巡る物語です。
この作品の魅力は、「キス」という行為が、友情や恋心、そして学園の秘密に繋がっていくという、ドキドキ感満載の設定です。山田と魔女たちのコミカルなやり取りはもちろん、彼らが抱える心の葛藤や、魔女の能力の裏にある切ない真実が描かれた、青春群像劇です。
あらすじ
この学校には7の魔女がいる。
私立の進学校での日常になじめず、問題ばかり起こしている主人公・山田竜。
しかしあることをきっかけに、彼の学園生活は一変!
新たな仲間魔女たちとの出会いとともに、楽しくも大変な毎日が始まった。
7人の魔女を見つけるまで、もう退屈なんて言わせない!
軽いキスの先にあった、本当の心の繋がり
 アニメ『山田くんと7人の魔女』は、まるで軽快なピアノイントロのように始まり、そして最後には甘酸っぱい余韻を残す青春群像劇です。
 きっかけは偶然のキス。だが、その一瞬から始まる物語は、ただのドタバタラブコメではありません。人と人とが心を通わせることの難しさと尊さ、孤独の中で自分を見つめ直す成長の物語なのです。
 不良と呼ばれ、周囲から距離を置かれる高校生・山田竜。ある日、階段で優等生の白石うららとぶつかり、誤ってキスをしてしまいます。すると――二人の身体が入れ替わった。そこから始まる不思議な現象と、学園に隠された“7人の魔女”の存在。ひとつのキスが、彼らの人生を変えていきます。
 入れ替わり、嫉妬、友情、そして恋心。キスを通じて繋がる彼らの関係は、奇妙で滑稽で、でもどこまでも人間らしい。そんな温かい作品です。
「キス」はただの魔法じゃない ― 心の壁を溶かす儀式
 物語の主軸となる“キスで発動する魔女の力”。聞くだけで少し恥ずかしくなる設定ですが、この作品ではそれがコミカルでありながらも、深い意味を持っています。
 山田竜(CV:逢坂良太)と白石うらら(CV:早見沙織)の入れ替わりは、単なるギャグではなく、彼らが互いの“痛み”を知るための手段です。白石は優等生として周囲から距離を置かれ、山田は不良のレッテルを貼られて孤立していました。立場も性格も違う二人が、体を入れ替えることで初めて相手の苦しみを知り、心が触れ合っていく。
 つまり、キスは彼らにとって“共感”の扉を開く儀式なのです。
 他の魔女たちも同様に、それぞれが孤独や悩みを抱えています。人の心を操る者、過去を変えたい者、誰かに認めてほしい者――。彼女たちが抱く願いはどれも切なく、現代社会に生きる私たちにも通じるものがあります。
 そしてそのすべての魔女たちを救おうと奔走する山田の姿に、人との繋がりを取り戻していく「青春の再生」が描かれています。
魔女たちの涙と笑顔 ― 「孤独」を乗り越える物語
 本作で最も印象的なのは、7人の魔女たちがそれぞれに抱える“孤独”の描き方です。彼女たちは、力を持つことで特別になったのではなく、孤独を抱えたがゆえに魔女になってしまった。
 その象徴的な存在が、小田切寧々(CV:喜多村英梨)です。彼女はキスによって相手を虜にしてしまう能力を持つ魔女。外見は強気で挑発的ですが、心の奥には“本当の愛が欲しい”という寂しさが潜んでいます。山田に協力しながらも、恋に破れ、涙を流す姿はとても人間的で、決して脇役とは言えません。
 また、魔女たちの能力はキスという単純な行為を介して発動しますが、それは単なる“接触”ではなく“信頼”の象徴でもあります。キスが軽く見えるほど、登場人物たちの心のやり取りは重く、リアルです。
物語が進むにつれて魔女たちが増え、展開はスピーディーになりますが、それでも一人ひとりにドラマがあります。短いエピソードの中で、傷つき、和解し、笑顔を取り戻していく姿に、思わず心を掴まれます。孤独な心を“理解し合うこと”で癒やしていく。これこそが『山田くんと7人の魔女』の真のテーマです。
ラブコメの中に潜む“人間ドラマ”の完成度
 『山田くんと7人の魔女』は、一見すると軽い学園ラブコメのようですが、その奥には「人間の本質」を見つめるまなざしがあります。
 恋愛という感情を通して人はどのように変わるのか。他人を信じることは、なぜこんなにも難しいのか。そうしたテーマを、“魔法”というファンタジー設定を借りながら、驚くほど丁寧に描いているのです。
 山田は魔女たちを助けながら、自分自身の中の“他人への恐れ”や“孤立”を克服していきます。最後に白石と交わすキスは、最初のような偶然でも、軽い挨拶でもない。“心が通じ合った者同士の約束”としてのキス。その瞬間、彼らの物語は“ラブコメ”から“青春の成就”へと昇華します。
そして、この作品を語る上で欠かせないのが音楽です。オープニングテーマ「くちづけDiamond」(WEAVER)は、明るく疾走感のあるメロディーの中に、淡い切なさを滲ませています。エンディングの「CANDY MAGIC」(みみめめMIMI)は、魔女たちの孤独と再生を象徴するような温かい楽曲で、物語を優しく締めくくります。
まとめ:キスは奇跡の合図 ― 不器用な心が触れ合う青春劇
 『山田くんと7人の魔女』は、“キスで入れ替わる”という奇抜な設定の裏に、人間の本質を描いた物語です。
 孤独だった少年と少女が、他人を信じ、仲間を救い、恋を知る。そこに描かれるのは、誰もが一度は経験する“人と心を通わせたい”という願いです。
 最後のキスは、恋の証であると同時に、彼らがようやく見つけた“自分自身”との和解の印。だからこそ、見終わった後に心が温かくなる。
 派手ではなく、でも忘れられない。『山田くんと7人の魔女』は、恋と友情、そして孤独を越えた先にある青春の光を、最も優しい形で描いた名作です。
スタッフ・キャスト
キャスト
- 山田 竜: Voiced by 逢坂良太
- 白石 うらら: Voiced by 早見沙織
- 宮村 虎之介: Voiced by 増田俊樹
- 伊藤 雅: Voiced by 内田真礼
- 小田切 寧々: Voiced by 喜多村英梨
- 大塚 芽子: Voiced by 牧野由依
- 猿島 マリア: Voiced by タカオユキ
- 滝川 ノア: Voiced by 悠木碧
- 飛鳥 美琴: Voiced by 花澤香菜
- 西園寺 リカ: Voiced by 田澤茉純
スタッフ
© 吉河美希・講談社/2014「やまじょ」製作委員会

 
	 
	 
 
	 
	