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映画

銃を置いた男が、再び立ち上がるとき――『プロフェッショナル』が描く贖罪と絆の物語

プロフェッショナル
tarumaki

作品情報

伝説の殺し屋が、爆弾テロリストたちをぶっ潰すために立ち上がるハードボイルドアクションです。

共演には、「イニシェリン島の精霊」で存在感を放ったケリー・コンドン、「ゲーム・オブ・スローンズ」でおなじみのジャック・グリーソン、「ベルファスト」のキアラン・ハインズといった実力派が勢ぞろい。

監督は、「マークスマン」でもリーアム・ニーソンとタッグを組んだロバート・ロレンツがメガホンをとっています!

あらすじ

シニアの円熟とタフなファイトを両立させる、唯一無二のアクションヒーローとして独自の座を築いてきた名優リーアム・ニーソンが、自身のキャリアの集大成として選んだ最新作。自身の故郷である北アイルランドを舞台に、裏の顔を持つ男が引退を決意した矢先、再び戦いの連鎖に巻き込まれていく。ハードな修羅場を幾度も潜り抜けてきた主人公が、その優しさゆえ、疲弊した心身を奮い立たせながら、最後の戦いに立ち向かっていく姿に、ニーソン本人の姿を重ねずにはいられない。
監督は長年、クリント・イーストウッド監督とタッグを組んできたロバート・ロレンツ。撮影もイーストウッド作品の撮影を長年手掛け、『チェンジリング』でアカデミー賞撮影賞にノミネートされたトム・スターンが務めた。手練れの制作陣とニーソンのタッグによる、渋く滋味深いドラマの重厚さとキレのある痛快なアクションを併せ持つ大人のための極上のエンタテインメントが誕生した。

アクションを越えて、静かに胸を打つ「老殺し屋」のドラマ

「またリーアム・ニーソンの復讐モノでしょ?」と高を括って観始めたこの作品、『プロフェッショナル』。確かに、彼の主演作には“かつての凄腕が今また立ち上がる”という構図が多く、本作もその系譜に思えるかもしれません。

しかし、この映画はひと味違います。静謐な風景と渋い会話劇のなかで語られるのは、“暴力”ではなく、“贖罪”と“絆”。北アイルランドの紛争の傷跡を背景に、人生を降りようとした一人の男が再び銃を手にするまでの、哀切で美しい物語が紡がれていきます。

今回は、そんな『プロフェッショナル』の魅力を「リーアム・ニーソンの存在感」「物語に息づく“故郷の記憶”」「沈黙が語る、もう一つの戦い」という3つの視点からご紹介します。

沈黙が語る男の哀愁 ― リーアム・ニーソンの底力

『プロフェッショナル』最大の魅力は、やはりリーアム・ニーソンの存在感です。今や“高齢アクション俳優”の代名詞とも言える彼ですが、本作での佇まいは、そのイメージを超えた深みを湛えています。

主人公フィンバーは、かつて命を奪うことを生業とした男。しかし今は海辺の小さな町で穏やかな日々を送り、亡き妻を偲びながら静かな老後を過ごしています。その眼差しには、かつての過ちや喪失、悔い、そして淡い希望すら宿っているのです。

彼が再び銃を取る動機は、復讐でも義務でもありません。虐待されている少女を守るため――つまり、誰かを「救う」ためなのです。この行動はフィンバーが長年にわたって自分の罪と向き合ってきた証であり、ただの“殺し屋映画”とは明確に一線を画しています。

また、言葉少なに感情をにじませるニーソンの演技は圧巻です。怒りも悲しみも、彼の沈黙や一瞬のまばたきに集約されていて、表情一つで観客の心を揺さぶります。特に教会での対話シーンでは、彼の“静かな激しさ”が見事に発揮されていて、まさに名優の真骨頂と言えるでしょう。

アイルランドという舞台が醸し出す“土地の記憶”

本作がただのアクション映画で終わらない理由の一つに、北アイルランドという舞台設定があります。1974年のIRAによるテロ事件を背景に、静かな海辺の町に逃げ込んだテロリストと、そこで平穏を求めて生きる元殺し屋――この対比が、物語に強い緊張感と詩情を与えています。

海、草原、石造りの家々、教会…。どの風景も画面に映るだけで、土地の記憶や歴史の重みを感じさせます。これらのロケーションは、ただの舞台ではありません。登場人物たちの心象風景と呼応し、彼らの抱える過去や孤独、希望を映し出しているのです。

そして、そこに登場する人々――地元の警官ビンセント、母娘で暮らすモヤとシニード、そして若き殺し屋ケヴィンなど――もまた、北アイルランドの現実に根ざしたキャラクターたちです。彼らがそれぞれの方法で日々を懸命に生きている姿には、リアリティと共感が宿ります。

フィンバーが送る一冊の本、ドストエフスキーの『罪と罰』が象徴するように、本作は“個の罪”と“社会の罪”を同時に見つめようとする誠実さがあります。背景にある紛争は、決して説明過多になることなく、それでも確かに登場人物たちの人生に影を落としているのです。

敵もまた人間――善悪を超えた“対等な視線”

本作においてもうひとつ特筆すべきは、敵として描かれるIRAのメンバー、特にケリー・コンドン演じるデラン・マッキャンの存在です。

彼女は冷酷なテロリストとして登場しますが、同時に弟を守ろうとする姉でもあり、父の死をきっかけに“組織に生きる”ことしか選べなかった不器用な人物でもあります。決してステレオタイプな悪役ではなく、むしろ「なぜ暴力に身を投じたのか」を観客に考えさせる造形となっているのです。

教会でのクライマックス、フィンバーとデランの対話は、本作の核心部分です。どちらも罪を犯し、過去に苦しみ、もう取り返しがつかないことを知っている。それでも、最後の瞬間に分かち合える何かを探している――そんな静かな贖罪の物語が、観る者の胸を締めつけます。

また、若き殺し屋ケヴィンの存在も重要です。彼はフィンバーの過去の鏡のような存在であり、殺しを“ゲーム”としてしか捉えられない若者です。しかし、彼にもまた夢があり、痛みがあり、人間的な弱さがあります。だからこそ、フィンバーとの間に生まれる微かな交流が、心を打つのです。

善と悪、加害と被害、正義とテロ。こうした二項対立を超えて、人間同士の「どうしようもなさ」と「それでも誰かと繋がろうとする意志」が静かに描かれている点で、この映画は実に誠実なヒューマンドラマだと言えるでしょう。

まとめ:これは“リーアム・ニーソン映画”というジャンルだ

『プロフェッショナル』は、決して派手なアクションやド派手な展開を求めて観る作品ではありません。むしろ、内面の葛藤や静かな対話、風景に滲む人生の哀しみといった“余白”を楽しむ作品です。

主演のリーアム・ニーソンはもちろん、ケリー・コンドン、キアラン・ハインズ、ジャック・グリーソンといった名優たちのアンサンブルも素晴らしく、それぞれのキャラクターに血が通っています。

監督のロバート・ロレンツ、撮影のトム・スターンといったイーストウッド作品ゆかりのスタッフたちによる職人技も光り、映像、音楽、美術、すべてが“映画らしい映画”として仕上がっています。

そしてなにより――本作は、リーアム・ニーソンという俳優が歩んできた道のり、その“生き様”を投影したような作品です。これはもはや、アクション映画でもノワールでもない。ひとつのジャンルとしての“リーアム・ニーソン映画”なのです。

人生の終盤でようやく“静かな贖罪”を果たそうとする男の物語。その背中を、ぜひじっくりと見届けてください。沈黙の奥に宿る言葉にできない想いが、きっとあなたの心にも残るはずです。


スタッフ・キャスト

キャスト

  • フィンバー・マーフィー / リーアム・ニーソン
  • デラン・マッキャン / ケリー・コンドン
  • ケビン / ジャック・グリーソン
  • ビンセント / キアラン・ハインズ
  • デズモンド・イーストウッド
  • ロバート・マキュー / コルム・ミーニー

スタッフ

  • 監督 / ロバート・ロレンツ
  • 脚本 / マーク・マイケル・マクナリー, テリー・ローン
ABOUT ME
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ゲーム制作会社で働いてます。
最新作から過去作まで好きな作品を紹介して、少しでも業界の応援になればと思いつつに書いていこうと思います。 基本的に批判的な意見は書かないようにしています。
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