映画『リアル・ペイン~心の旅~』─旅が問いかける、痛みと向き合う勇気

作品情報
『リアル・ペイン〜心の旅〜』は、2024年制作のアメリカ合衆国のドラマ映画です。ジェシー・アイゼンバーグが監督・脚本・製作・主演を務めています。
監督、脚本、製作を務め、さらに主人公デヴィッドを演じるのは、『ソーシャル・ネットワーク』で俳優としてブレイク、『僕らの世界が交わるまで』で監督デビューを果たし、世界から高評価を受けたジェシー・アイゼンバーグ。前作に引き続きエマ・ストーンがプロデューサーとして名を連ねる中、W主演としてデヴィッドの従兄弟であるベンジー役を「メディア王~華麗なる一族~」で2024年のゴールデングローブ賞®、エミー賞をW受賞したキーラン・カルキンが演じており、その神がかり的演技に世界中から絶賛の声が集まりました。
あらすじ
ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)とベンジー(キーラン・カルキン)は、亡くなった最愛の祖母の遺言で、ポーランドでのツアー旅行に参加する。従兄弟同士でありながら正反対の性格な二人は、時に騒動を起こしながらも、ツアーに参加したユニークな人々との交流、そして祖母に縁あるポーランドの地を巡る中で、40代を迎えた彼ら自身の“生きるシンドさ”に向き合う力を得ていく。
感想
映画を観た後に、心が軽くなったような気がする──そんな体験をしたことはありますか? 『リアル・ペイン』は、人生の痛みを真正面から見つめながらも、どこか心を救ってくれるようなロードムービーです。監督・脚本・主演を務めたジェシー・アイゼンバーグが描くのは、過去と向き合う旅。ユダヤ人のルーツを辿るツアーに参加した主人公たちが、歴史と個人の痛みを見つめる中で、どのように変わっていくのか。本作の魅力を、3つの視点から紐解いていきましょう。
痛みを抱えた2人の旅──異なる生き方、交差する想い
物語の中心にいるのは、ニューヨークで暮らすデヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)と従兄弟のベンジー(キーラン・カルキン)。
デヴィッドは家庭を持ち、社会的に「まともな」人生を歩んでいるが、実は強迫性障害を抱え、薬を服用しながら日々を過ごしている。一方のベンジーは、定職に就かず自由奔放に生きるが、過去に自殺未遂を起こしたことがある。性格も生き方も正反対な2人は、最愛の祖母の遺言により、ポーランドを巡るツアーへ参加することになります。
旅の道中で、デヴィッドとベンジーは衝突を繰り返しながらも、お互いの心の痛みに少しずつ向き合っていきます。ときに笑い、ときに胸を締めつけられるような会話が続く中で、2人は「他者の痛みを本当に理解することはできるのか?」という問いに直面するのです。
旅先で見えてくる「痛み」の形──歴史と個人の交錯
ポーランドの地を巡るツアーは、単なる観光ではありません。ユダヤ人としてのルーツを辿り、強制収容所跡地を訪れることで、歴史の痛みを目の当たりにする旅です。
ガイドのジェームズ(ウィル・シャープ)は、各地の歴史を丁寧に説明します。しかし、ある場所に訪れたときだけは「多くを語らない」と告げ、参加者たちに静かに目の前の光景を受け止めるよう促します。説明をされなくても、目にしたものが語りかけてくる──本作は、そんな「感じる」ことの大切さを観客にも投げかけているのです。
また、ツアーの参加者たちもそれぞれの痛みを抱えています。ユダヤ人の夫婦、ルワンダのジェノサイドを生き延びた改宗者、そしてデヴィッドとベンジー。彼らの人生と、ポーランドの歴史が交差することで、「痛み」は単なる過去の出来事ではなく、今を生きる人々の現実として浮かび上がってきます。
ショパンの旋律が伝えるもの──音楽と痛みのシンボル
本作では、ポーランドを代表する音楽家・ショパンの楽曲が多く使用されています。ショパンは生涯を通じて病に苦しみ、祖国を離れた痛みを抱えながら生きた人物です。その旋律は、美しくもどこか切なく、登場人物たちの内面と見事にシンクロしています。
ショパンの音楽が流れる中、デヴィッドとベンジーは旅を通じて変化していきます。しかし、それは劇的な変化ではなく、ほんの少しの心の動き。エンディングでは、ベンジーの表情に微妙な変化が見て取れます。「彼は変わったのか、それとも変わらないのか?」──その答えは観る人によって違うかもしれません。
まとめ──旅がもたらしたもの
『リアル・ペイン』は、単なるロードムービーではなく、「痛み」とどう向き合うかを問いかける作品です。
ベンジーの心に何が残ったのか? デヴィッドは何を感じたのか? それは明確には描かれません。しかし、確かなのは、彼らが旅を通じて「誰かの痛みを想像する」ことを学んだということ。そして、それは観客である私たちにも伝わってきます。
人は旅をすると「人生が変わる」と言いがちですが、実際はそんなに簡単に変われるものではないかもしれません。でも、「他者の痛みを想像する」という小さな変化が、自分自身や周囲の人々との関係を少しだけ優しくしてくれる。そんなメッセージを感じ取れる映画でした。
ジェシー・アイゼンバーグの監督としての手腕が光る本作。彼の次回作も、きっとまた私たちの心に問いかける作品になることでしょう。
作品情報
キャスト
- デヴィッド・カプラン / ジェシー・アイゼンバーグ
- ベンジー・カプラン / キーラン・カルキン
- ジェームズ / ウィル・シャープ
- マーシャ / ジェニファー・グレイ
スタッフ
- 監督 / ジェシー・アイゼンバーグ
- 脚本 / ジェシー・アイゼンバーグ