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映画

恋に落ちたのは、言葉を持たないふたり―映画『シェイプ・オブ・ウォーター』が描く静かな愛のかたち

シェイプ・オブ・ウォーター
tarumaki

作品情報

『シェイプ・オブ・ウォーター』は、ギレルモ・デル・トロ監督が手がけた、冷戦下のアメリカを舞台にしたファンタジー・ロマンスです。声が出せない孤独な女性イライザが、政府の極秘研究所で出会った不思議な水棲生物と、言葉を超えた深い絆で結ばれていく物語。

イライザは、心優しい隣人たちの助けを借り、種族を超えた愛のために、全てを懸けて彼を救い出そうとします。時代背景や社会のマイノリティに対する視線も織り交ぜながら、独特の映像美と切ないストーリーで観客を魅了する、大人のためのおとぎ話のような作品です。

あらすじ

愛が溢れ出す――。アカデミー賞(R)作品賞ほか最多4冠!『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロ監督が贈る、切なくも愛おしい究極のファンタジー・ロマンス。 1962年、アメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザはある日、施設に運び込まれた不思議な生きものを清掃の合間に盗み見てしまう。“彼”の奇妙だが、どこか魅惑的な姿に心を奪われた彼女は、周囲の目を盗んで会いに行くようになる。幼い頃のトラウマからイライザは声が出せないが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なかった。次第に二人は心を通わせ始めるが、イライザは間もなく“彼”が実験の犠牲になることを知ってしまう。“彼”を救うため、彼女は国を相手に立ち上がるのだが――。

感想

恋愛映画と聞いて思い浮かべるのは、互いに言葉を交わしながら気持ちを育てていく姿ではないでしょうか。しかし、映画『シェイプ・オブ・ウォーター』で描かれるのは、言葉を持たない女性と、人間とは程遠い半魚人との恋。そんな2人がどうやって惹かれ合い、心を通わせるのか――その一行だけで、観る前から心をつかまれてしまいました。

本作は、2017年に公開されたギレルモ・デル・トロ監督による異色のファンタジー・ロマンス。冷戦時代のアメリカを舞台に、政府の極秘研究施設で出会った2人(1人と1匹?)の、静かで、美しく、どこか切ない愛の物語が描かれます。愛のカタチには正解なんてない。そんなことを、そっと教えてくれる珠玉の一本です。

今回はこの『シェイプ・オブ・ウォーター』の魅力を、3つの視点からたっぷりとご紹介します。

どうして恋に落ちたの? 無言のラブストーリーの魔法

本作の最大の特徴は、主人公のイライザが「声を持たない」という設定。彼女は話すことができませんが、耳は聞こえ、手話や表情、行動で周囲とコミュニケーションを取っています。そして、そんな彼女が心惹かれていくのが、人ならざる存在「半魚人」。見た目は完全に魚寄りで、首にエラ、ヒレのついた腕、ぬめり感のある肌……とても“イケメン”とは言いがたいビジュアルです。

しかし、観ているうちに不思議と彼が魅力的に見えてくるから驚きです。演じたのはデル・トロ作品の常連、ダグ・ジョーンズ。全身スーツの中からでも伝わる繊細な動きと存在感で、まるで「中身は紳士な彼氏」のように思えてくるのです。むしろその“異質さ”が、孤独を抱えるイライザにとっては唯一無二の「同じ世界に生きる者」として映ったのかもしれません。

2人の間に言葉はありません。けれど、手話と視線と、ゆっくり重なる音楽とが、どんなセリフよりも豊かに感情を伝えてくれます。特に水の中で心を通わせるシーンの数々は、まるで詩のように美しく、観ていて涙がにじむほど。言葉がないからこそ、観る側はより深く「感じる」ことができるのです。

背景の冷戦と“クソ野郎”ストリックランド

本作の物語は、冷戦真っただ中のアメリカが舞台。アメリカとソ連が科学技術で競い合い、あらゆる情報が国家の機密として扱われる不穏な時代です。そんな中、政府の極秘研究施設に半魚人が運び込まれ、彼をめぐって様々な思惑が交錯します。

この時代背景を象徴するように登場するのが、マイケル・シャノン演じるストリックランド。彼は軍人であり、研究施設の管理者であり、そしてこの物語で唯一の“悪役”です。いかにも権力と暴力が大好物という雰囲気で、半魚人をただの実験素材としか見ていません。イライザが彼を逃がそうとする理由の一端は、この男の存在にあります。

ストリックランドは物語をかき乱すスパイス的存在。序盤で指を食いちぎられるシーンからしてインパクト大ですが、その後も不快な言動と、腐っていく指と精神状態が見事にシンクロし、観る者にジワジワとした恐怖を与えます。しかし、だからこそ彼への“因果応報シーン”が痛快で、観ていて思わずニヤリとしてしまうのです。

この作品は基本的に、イライザや彼女の友人たちなど“良い人”しか登場しません。だからこそ、ストリックランドの存在が強烈に浮き上がり、作品全体にスリルと緊張感を生み出しています。

サリー・ホーキンスの名演と、映像美に酔いしれる

イライザを演じたのはサリー・ホーキンス。彼女の演技はまさに圧巻です。声を出さない役にも関わらず、手話と表情だけで豊かな感情を伝え、観客に「イライザの声」が聴こえてくるような気さえ起こさせます。

イライザは、静かで控えめに見えて、実は大胆で行動的。彼を助けるために命を懸けた計画を立てる場面では、その強さと優しさがにじみ出ていて、胸を打たれます。そんな彼女に共感し、彼女の目線で世界を見つめる時間こそが、この映画を特別なものにしている理由なのだと思います。

また、全体を包むレトロな映像美も本作の魅力のひとつ。緑がかった画面、幻想的な照明、特撮感のあるセットが、まるで1960年代の映画を観ているようなノスタルジーを呼び起こします。とりわけ、水の中のシーンは神秘的で、ふんわりとした青いシフォンのような質感が哀しさと優しさを同時に表現しています。

脇を固める俳優陣も名演ぞろい。リチャード・ジェンキンス演じるジャイルズや、オクタヴィア・スペンサー演じるゼルダといった、イライザを支える存在たちが、それぞれに哀しみと優しさをにじませ、物語に深みを与えてくれます。

最後に

『シェイプ・オブ・ウォーター』は、ラブストーリーであり、社会風刺でもあり、そして何より“見たことのない美しさ”に出会える映画です。恋とは、言葉ではなく“通じ合うこと”だと教えてくれる本作は、声のない2人の静かな愛を通して、観る者の心を静かに、しかし深く揺さぶります。

私たちが普段、何気なく見逃している「他者と分かり合うことの奇跡」を、そっと映し出してくれるような一本。少し疲れたときに、そっと寄り添ってくれるような映画が観たいなら、ぜひ『シェイプ・オブ・ウォーター』を手に取ってみてください。

大人になった今だからこそ、「甘い夢」の価値がわかる。そんな時間を、あなたにも味わってほしいと思います。


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ゲーム制作会社で働いてます。
最新作から過去作まで好きな作品を紹介して、少しでも業界の応援になればと思いつつに書いていこうと思います。 基本的に批判的な意見は書かないようにしています。
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