アニメ『PLUTO』レビュー
作品情報
1964年、マンガの父・手塚治虫の代表作『鉄腕アトム』の一遍として絶大な人気を博した『地上最大のロボット』は、2003年、『20世紀少年』、『YAWARA!』、『MONSTER』などメガヒットを続ける漫画家・浦沢直樹と、長崎尚志のプロデュースによって『PLUTO』(小学館ビッグコミックス刊)として蘇った。
<人間と高性能ロボットが共生する近未来>で起こる上質なサスペンスドラマは、手塚治虫文化賞マンガ大賞をはじめ、“漫画界のカンヌ”と称されるアングレーム国際漫画フェスティバルのインタージェネレーション賞を獲得するなど国内外で高い評価を獲得、単行本の全世界累計発行部数は1,000万部を超える大ヒットとなった。
さらに2015年には舞台化、2018年には再演も行われ、日本はもちろんイギリス、オランダ、ベルギーと欧州ツアーも敢行された。そして、日本初のTVアニメ「鉄腕アトム」の放送から60年となる2023年、「鉄腕アトム」の制作スタッフにも名を連ね、気鋭のスタジオ・MAPPAの創設者でもある丸山正雄の手によって遂に『PLUTO』がアニメーションとなって動き出す。
全世界に贈る【愛】と【憎しみ】の記憶の物語。
公式サイトより引用 https://pluto-anime.com/
混迷の時代に「PLUTO」を通して見える世界とは―――。
キャスト
- ゲジヒト/ 藤 真秀
難事件を解決してきたユーロポールの特別捜査官ロボット
世界最高水準のロボットの1人。 - アトム / 日笠陽子
日本が有する世界最高水準のロボットの1人。 - モンブラン / 安元洋貴
スイスの山林保護担当官、世界最高水準のロボットの1人。 - ノース2号 /山寺宏一
スコットランドの作曲家ポール・ダンカンの執事。
世界最高水準のロボットの1人 - ブランド / 木内秀信
トルコが誇るロボット格闘技のチャンピオン。
世界最高水準のロボットの1人。 - ヘラクレス / 小山力也
ギリシアの国民的英雄である世界最高水準の格闘技ロボット。 - エプシロン / 宮野真守
オーストラリアで戦災孤児を育てる世界最高水準のロボット。 - ウラン / 鈴木みのり
「アトムの妹」として作り上げられた少女型ロボット。 - プルートゥ / 関俊彦
竜巻を起こしながら飛来する謎の巨大ロボット。 - ブラウ1589 / 田中秀幸
歴史上で唯一、殺人を犯したロボット。 - お茶の水博士 / 古川登志夫
日本の科学省長官でアトムとウランの育ての親。 - 天馬博士 / 津田英三
人工知能の世界的権威にしてアトムを創造した天才科学者。 - ヘレナ / 朴 璐美
インテリアデザイナーとして働くゲジヒトの妻 - ダンカン / 羽佐間道夫
ノース2号が仕える盲目の音楽家。 - アブラー博士 / 山路和弘
中央アジア最高の頭脳と呼ばれるペルシアの科学省長官 - アレクサンダー大統領 / 堀内賢雄
トラキア合衆国大統領。
スタッフ
- 原作 / 『PLUTO』浦沢直樹×手塚治虫
- 監督 / 川口俊夫
- キャラクターデザイン / 藤田しげる
- アニメーション制作 / スタジオM2
- 制作プロデュース / ジェンコ
あらすじ
憎しみの連鎖は、断ち切れるのか。
人間とロボットが<共生>する時代。
強大なロボットが次々に破壊される事件が起きる。調査を担当したユーロポールの刑事ロボット・ゲジヒトは犯人の標的が大量破壊兵器となりうる、自分を含めた<7人の世界最高水準のロボット>だと確信する。時を同じくしてロボット法に関わる要人が次々と犠牲となる殺人事件が発生。<ロボットは人間を傷つけることはできない>にも関わらず、殺人現場には人間の痕跡が全く残っていなかった。
2つの事件の謎を追うゲジヒトは、標的の1人であり、世界最高の人工知能を持つロボット・アトムのもとを訪れる。
「君を見ていると、人間かロボットか識別システムが誤作動を起こしそうになる。」
まるで本物の人間のように感情を表現するアトムと出会い、ゲジヒトにも変化が起きていく。そして事件を追う2人は世界を破滅へと導く史上最悪の<憎しみの存在>にたどり着くのだった―――。
公式サイトより引用 https://pluto-anime.com/
感想
浦沢直樹によって手塚治虫作の「地上最大のロボット」が『PLUTO』として復活してから約15年。ついにアニメ化されました。
浦沢直樹が描いた鉄腕アトムと紹介され漫画を読んだ当時には、想像していたアトムとは全く違い総劇を受けました。浦沢直樹特有の独特なダーク感を混ぜつつも原型を損なうことなく全く新しい鉄腕アトムとして完成されていたと思います。
ミステリー要素が含まれていることで物語の真相がきになり一度読み始めたら手が止められなくなります。そして、人間とロボットの感情が繊細に表現されていて、涙もろい私には途中で涙せずにはいられませんでした。
すべてを見終わった後には、心に重たい何かが残る。素晴らしい作品だと思います。
戦争を敬虔した世界最高水準のロボットたち
ロボットというと感情がない無生物を想像してしまいますが、『PLUTO』で登場する世界最高水準ロボットたちは、見た目は人間らしくないものの高度なAIによりどのロボットも感情豊かで生き生きとしています。
エプシロンを除いた世界最高水準のロボット達はみな第39次中央アジア紛争に参加し、卓越した戦闘力で次々と敵軍のロボット兵団を破壊し国連平和維持軍を勝利へと導きました。
しかし、勝利を経たはずのロボット達は荒廃した街や同胞の残骸の風景を目の当たりにし、言葉を失い、ただ同胞を殺した罪を心に抱えそれからを生きていきます。
ロボットをモノだと思ってしまっている私には「ロボットを殺す」という言葉を理解するのが難しく、最初は戦争に参加したロボットたちが思い悩んでいる姿にあまり感情移入できずにいましたが、ノース2号が作曲家の主人に「私のピアノに触るな!お前には戦場がお似合いだ!」と言われ悲しげに「だから、弾けるようになりたいのです。もう、戦場には行きたくないから…」と答えている姿には心の奥が痺れる感じがしました。
過去の経験からトラウマを抱えつつも懸命に生きるロボットたちは、物悲しくも魅力的でアニメを見ているうちに好きになってしまうほどでした。プルートゥとの戦いを見ているときは「頼む死なないでくれ!」と祈りながら見てしまいました。個人的にはヘラクレスの友情が垣間見えるところが好きでした。
「だれか、この憎しみを止めてくれ」
『PLUTO』は様々な人や本来感情を持たないとされるロボットたちの憎しみという感情が主軸となり物語が進んでいきます。家族を失った人、両親のいない子供たち、仲間を失ったロボット、様々は憎しみが複雑に絡み合い真相へとつながっていく物語は圧巻です。
現代の不安定な世界情勢の歴史的背景を理解しつつアニメを見ることで、終わらない憎しみの連鎖がまるで実感しているかのように危機と迫ってくる感じがあります。そしてアトムがプルートゥと闘ったときにいうセリフ「憎しみは何も生まない」というセリフは、心にしみわたり改めて戦争と平和について学び、そして考えなければいけないのかもしれないと感じました。
最後に
今だからこそ見て欲しい作品だと感じました。
そして、冒頭から終盤まで作品のテーマが心に重くのしかかりますが、手塚治虫から受け継ぎ浦沢直樹が表現した平和への思いをぜひ堪能してください。