映画『川っぺりムコリッタ』:孤独とぬくもりが交錯する、音が響く物語
画像はCULTURE PUBLISHERSより引用:https://culture-pub.jp/lineup/kawapperimukoritta/
作品情報
「かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」の荻上直子監督が2019年に発表したオリジナル長編小説を、自身の脚本・監督で映画化。松山ケンイチ主演、ムロツヨシの共演で、孤独な青年がアパートの住人との交流を通して社会との接点を見つけていく姿を描く。
キャスト
- 山田たけし:松山ケンイチ
- 島田幸三:ムロツヨシ
- 南詩織:満島ひかり
- 中島:江口のりこ
- 住職:黒田大輔
- 知久寿焼
- 北村光授
- 松島羽那
- 堤下靖男:柄本佑
- 大橋:田中美佐子
- 薬師丸ひろ子
- 笹野高史
- 沢田:緒形直人
- 溝口健一:吉岡秀隆
スタッフ
- 監督:荻上直子
- 原作:荻上直子
- 脚本:荻上直子
- 企画プロデュース:水上繁雄、飯田雅裕
- プロデューサー:野副亮子、永井拓郎、堀慎太郎
- 撮影監督:安藤広樹
あらすじ
山田(松山ケンイチ)は、北陸の小さな街で、小さな塩辛工場で働き口を見つけ、社長から紹介された「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始める。無一文に近い状態でやってきた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの良く冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。ある日、隣の部屋の住人・島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してほしいと上がり込んできた日から、山田の静かな日々は一変する。できるだけ人と関わらず、ひっそりと生きたいと思っていた山田だったが、夫を亡くした大家の南(満島ひかり)、息子と二人暮らしで墓石を販売する溝口(吉岡秀隆)といった、ハイツムコリッタの住人たちと関わりを持ってしまい…。図々しいけど、温かいアパートの住人たちに囲まれて、山田の心は少しずつほぐされていく―。
感想
風呂を貸したら人生が変わる!?
『川っぺりムコリッタ』は、一見孤独をテーマにしているようで、実は人と人との繋がりがもたらす温かさを静かに描いた作品です。物語は、刑期を終えた孤独な青年・山田(松山ケンイチ)のもとに、隣人の島田(ムロツヨシ)が「風呂を貸してほしい」と突然訪れるところから始まります。
山田は人付き合いを避けたいタイプ。しかし、島田の軽快なノックとおせっかい(だけど憎めない!)な振る舞いをきっかけに、彼の静かな日常は少しずつ変わり始めます。
表には出ない、誰もが抱える”何か”
この映画の魅力は、人間関係の描写がとてもリアルなところ。登場するキャラクターたちは一見すると普通に見えますが、誰もが何かしらの悩みや過去を抱えています。その詳細は語られすぎず、観る側の想像に委ねられている部分が多いのも心に刺さるポイントです。
「幸せそうに見える人でも、何かを抱えながら懸命に生きている」。そんな普遍的なメッセージが、派手な演出ではなく、日々のちょっとした出来事や会話の中で丁寧に表現されています。観ていると、まるで自分もこの川沿いのアパートの住人になったような気分になるから不思議です。
音と映像が織りなす、静かで豊かな世界
この映画は「音」がとても印象的。
- 蝉やひぐらしの声
- キュウリを噛む音
- 夕方の寺の鐘
- 川辺に響く水のせせらぎ
- 木々を打つスコールの音
そんな日常的な音が、この映画では特別な意味を持って聞こえてきます。映像とともに奏でられる音たちが、心に深く染み込むようで、観終わった後も不思議な余韻が残ります。
さらに、音楽もこの作品の世界観にぴったりで、観ている間ずっと気持ちを包み込んでくれるような温かさを感じます。
観た後にじんわり心に残る作品
『川っぺりムコリッタ』は、派手な展開や感動的なクライマックスで盛り上げる作品ではありません。でも、その分リアルで素朴な美しさが詰まっています。
孤独や過去の傷を抱える登場人物たちが、少しずつ他人と関わる中で見つける「希望」。それは、もしかしたら私たちの身近にもあるかもしれません。この作品を観て、誰かとの繋がりを大切にしたくなる、そんな気持ちにさせてくれるのが魅力です。
最後に
『川っぺりムコリッタ』は、静かだけど深く響く作品。観る人によって感じるものは違うかもしれませんが、確実に心に何かを残してくれます。
「ちょっと疲れたな」と思った日にぜひ観てみてください。この映画の音と映像、そして人々の優しいやり取りが、そっと心を癒してくれるはずです。