映画『夜明けのすべて』:心にそっと寄り添う、優しさの物語
作品情報
松村北斗 × 上白石萌音×監督:三宅唱×原作:瀬尾まいこ
ささやかな、でも確かなつながりが照らす、かけがえのない物語 「そして、バトンは渡された」で2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの原作小説を、『ケイコ目を澄ませ て』が第72回ベルリン国際映画祭ほか20以上の映画祭に出品され、第77回毎日映画コンクールで日本映画大 賞、監督賞他5部門を受賞するなど、国内外で絶賛を浴びた三宅唱監督が映画化。原作にオリジナルの要素を加 え、二人が交流し少しずつお互いの殻を溶かし合っていく姿を、彼らの見つめる日常の美しさや季節の移ろいと ともに捉えた。W主演を務めるのは、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じた松村北 斗と上白石萌音。映画としては初共演となる二人が、今回は同僚役で最高の理解者となる特別な関係性を演じ る。また、二人を優しく見守る、山添くんと藤沢さんが勤める栗田科学の社長・栗田和夫には光石研。その他、 りょう、渋川清彦、芋生悠、藤間爽子など実力派キャストが脇を固めている。人生の様々な瞬間に、何度も思い 出してしまうような大切な一本になる、令和時代の新たな傑作が誕生した。
公式サイトより引用:https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp/about/
キャスト
- 山添孝俊:松村北斗
- 藤沢美紗:上白石萌音
- 辻本憲彦:渋川清彦
- 大島千尋:芋生悠
- 岩田真奈美藤間爽子
- 久保田磨希
- 足立智充
- 宮川一朗太
- 内田慈
- 丘みつ子
- 山野海
- 斉藤陽一郎
- 藤沢倫子:りょう
- 栗田和夫:光石研
スタッフ
- 監督:三宅唱
- 原作:瀬尾まいこ
- 脚本:和田清人、三宅唱
あらすじ
「出会うことができて、よかった」 人生は想像以上に大変だけど、光だってある――――
月に一度、PMS(月経前症候群) でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚・山添くんのとあ る小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそ うに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失ってい たのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な 気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではない かと思うようになる。
公式サイトより引用:https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp/about/
感想
恋人でも友達でもない、「同志」という関係
『夜明けのすべて』は、パニック障害を抱える山添くんと、PMS(月経前症候群)で月に一度感情を抑えられなくなる藤沢さんという二人の、特別な関係を描いた物語です。
恋愛とも友情とも違う、けれど互いに深く支え合う「同志」のような関係。そんな二人の関係性は、時に繊細で、時に温かく、観る人の心にそっと寄り添います。
“理解する”ことで生まれる優しさ
この作品が特に心に響くのは、職場の人々が二人の症状に寄り添い、理解し、支え合っている姿が描かれていること。
正直に言えば、私自身、PMSやパニック障害に対して無知でした。「急に機嫌が悪くなる人」や「仕事中に動揺する人」をどう扱っていいかわからず、冷たい態度をとってしまったこともあったかもしれません。でも、この映画を観て「相手を理解しようとすること」がどれだけ大切で、どれほど優しさに繋がるのかを改めて感じました。
誰かの行動に疑問や苛立ちを抱いた時、それが背景にある事情や感情に気づくチャンスかもしれません。この映画は、その大切なことを静かに教えてくれます。
静かだけど強い感情の描写
俳優陣の演技も素晴らしいです。
山添くんを演じた俳優が辻本さん(渋川清彦)をプラネタリウムに招待する場面は、本作の中でも特に印象的。辻本さんが涙を流すシーンは、胸を強く打ちました。その涙には、山添くんが一歩踏み出せたことへの喜びが込められているようで、観ているこちらまで目が熱くなりました。
また、光石研さんの存在感も特筆すべきポイント。職場の大人たちがどっしりと構え、二人をそっと支える姿が、作品全体に安心感を与えています。
心に沁み入る静かで優しい映像美
映像のトーンも非常に魅力的です。全体的に柔らかく、静かな雰囲気が貫かれており、時折挿入される8mmフィルム風のカットがなんとも言えない懐かしさを感じさせます。
この映像美が、物語の繊細さと見事にマッチしていて、観ていると心がふっと軽くなるような気持ちにさせてくれます。見終わった後には、まるで体全体に優しいものが染み渡るような感覚が残ります。
まとめ:心が少しだけ軽くなる、そんな作品
『夜明けのすべて』は、決して派手なストーリーではありません。でも、その静けさの中に、誰もが少しずつ持つ「生きづらさ」をそっと肯定してくれる優しさが詰まっています。
山添くんと藤沢さんの関係を見守るうちに、自分自身や周りの人たちをもう少し理解しよう、優しくなろうと思わせてくれる作品です。
何かに疲れてしまった時、ぜひこの映画を手に取ってみてください。きっと、心がふわっと軽くなる瞬間を感じられるはずです。